精神科看護師が看護記録を書くときのポイント
「記録に何を書けばいいかわからない」「先輩の記録と比べて自分の記録が薄い気がする」「SOAPって結局どう書けばいいの?」
精神科の看護記録は、一般病棟と違い「数値で表せない症状」を文章で表現する難しさがあります。この記事では、精神科看護師として26年働いてきた私が、看護記録を書くときに大切にしているポイントを丁寧にお伝えします。
なぜ記録が大切なのか
看護記録は、単なる「作業の記録」ではありません。
- チーム全体で患者さんの状態を共有するための情報源
- 治療方針を判断する医師への情報提供
- 法的な証拠としての役割(訴訟・監査などの際)
- 患者さんの変化を時系列で追うための資料
「自分が見たこと・感じたこと」を、自分以外の誰が読んでも状況がわかるように書くことが、記録の基本的な役割です。
記録の基本:SOAP形式
多くの病院で使われているのが「SOAP」という記録形式です。
S(Subjective:主観的情報)
患者さん本人が話した言葉をそのまま記載します。「」(カギカッコ)で記録します。
O(Objective:客観的情報)
看護師が観察した客観的な事実を記載します。表情・行動・バイタルサインなど、誰が見ても同じように確認できる内容です。
A(Assessment:アセスメント)
SとOの情報から、看護師が考えた評価・分析を記載します。
P(Plan:計画)
今後の看護計画・対応方針を記載します。
SOAP記録の例
| 項目 | 記録例 |
|---|---|
| S | 「最近よく眠れていない。考え事が止まらない」と発言あり |
| O | 夜間巡視時、2時・4時に覚醒している様子あり。日中はあくびが多く、傾眠傾向 |
| A | 不眠が継続しており、精神状態への影響が懸念される |
| P | 医師に報告し、睡眠状況の経過観察を継続する |
良い記録・良くない記録の違い——具体例で比較
「簡潔明瞭に」と言われることが多いからこそ、逆に表現が曖昧になりがちです。具体的な良い例・悪い例を比較してみましょう。
例①:行動の記録
悪い例:「落ち着きなし」
良い例:「14時頃より廊下を頻回に往復。声かけに『うるさい』と強い口調で返答あり。表情は険しく、目つきが鋭い。15時には自室に戻り、ベッドに座って独語が聞かれた」
「落ち着きなし」だけでは、どのくらいの頻度で・どんな様子で落ち着きがなかったのかが伝わりません。具体的な行動・時間・表情まで書くことで、次に読む人がその場面をイメージできます。
例②:気分・状態の記録
悪い例:「気分不良」
良い例:「『頭が重い、何もやる気がしない』と発言あり。表情は終始うつむきがちで、声のトーンも小さい。促しても自室から出ようとせず、ベッドで横になっていることが多い」
例③:食事の記録
悪い例:「食事はいつも通り」
良い例:「昼食は主食・副食ともに8割摂取。箸の動きはスムーズで、他患者との会話もあり」
例④:服薬の記録
悪い例:「与薬実施」
良い例:「与薬実施。服薬後、口腔内確認し残薬なし。眠気の訴えなく、ふらつきも見られない」
例⑤:希死念慮に関する記録(特に慎重に)
悪い例:「死にたいと言っていた」
良い例:「14時の訪室時、『もう死にたい、消えたい』と涙ぐみながら発言。具体的な計画の有無について確認したところ『考えてはいない』との返答あり。担当看護師に報告し、頻回な訪室を継続することとした」
希死念慮の記録は、発言だけでなく「具体的な計画があるか確認したか」「その後どう対応したか」まで記載することが重要です。
記録を書くときの具体的なポイント
① 主観と客観を分ける
「患者さんは怒っていた」ではなく、「大きな声を出し、机を叩く様子があった」のように、自分が見た事実を書くことが大切です。「怒っていた」という解釈はアセスメントの欄に書きます。
② 患者さんの言葉はそのまま記録する
「死にたい」「もう疲れた」など、患者さんの発言は意訳せず、そのままの言葉で記録してください。言葉のニュアンスが変わってしまうと、その後の対応判断にも影響します。
③ 時間を明確にする
「朝」「午後」ではなく、「9時頃」「14時30分」のように具体的な時間を書くことで、経過がわかりやすくなります。
④ 数値化できるものは数値で
食事摂取量「ほぼ完食」より「8割摂取」、睡眠時間「あまり眠れていない」より「23時就寝、2時・4時に覚醒、合計睡眠時間約4時間」のように、できるだけ具体的な数値を使いましょう。
⑤ ネガティブな情報だけでなく、良い変化も記録する
「不穏」「拒薬」などのマイナスの情報だけでなく、「笑顔が見られた」「自分から挨拶があった」というプラスの変化も、回復の指標として大切な記録です。
記録でよくある悩みと対処法
「何を書けばいいかわからない」とき
まずは観察したことをそのまま書き出してみてください。「表情」「言動」「行動」「睡眠」「食事」など、観察項目に沿ってチェックしていくと書きやすくなります。
「先輩のように詳しく書けない」とき
最初から完璧な記録を書ける人はいません。まずは「いつ・何が・どうだったか」の3点を押さえることから始めてください。
記録に時間がかかりすぎてしまうとき
その場でメモを取る習慣をつけることで、後でまとめて書くときの負担が減ります。
現場で気をつけていること
26年間記録を書き続けてきて、特に意識しているのは「次の勤務者が困らない記録」を書くことです。
自分が当然知っていることでも、初めて読む人にはわからないことがあります。「いつもの様子」ではなく、「具体的にどんな様子だったか」を書くことを心がけています。
また、希死念慮・自傷・他害のリスクに関する記録は、特に慎重に、具体的に書くようにしています。これらの記録は、患者さんの安全に直結する大切な情報だからです。
「簡潔明瞭に」という指導はもちろん大切ですが、簡潔さと曖昧さは違います。短くても、具体的な事実が含まれている記録こそが、本当に「良い記録」だと感じています。
まとめ
- 記録はチーム共有・治療判断・法的証拠としての役割がある
- SOAP形式(主観的情報・客観的情報・アセスメント・計画)が基本
- 主観と客観を分け、具体的な時間・数値を使って書く
- 患者さんの言葉はそのまま記録する
- 希死念慮など安全に関わる記録は特に慎重に、具体的に
- マイナスだけでなくプラスの変化も記録する
- 「簡潔」と「曖昧」は違う——具体性のある簡潔さを意識する
よくある質問
Q. 記録に自分の感想や意見を書いてもいいですか?
A. 客観的事実(O)と分けて、アセスメント(A)の欄に「看護師としての評価」として書くのは問題ありません。事実と解釈を混同しないことが大切です。
Q. 患者さんの言葉が長い場合、要約してもいいですか?
A. 重要な部分はできるだけそのままの言葉で残してください。要約すると、ニュアンスが変わってしまうことがあります。
Q. 記録を書く時間がいつも足りません。
A. その場でメモを取る習慣をつけると、後でまとめて書く負担が減ります。優先順位の高い情報(安全に関わること)から先に記録する意識も大切です。
Q. 「簡潔に」と言われますが、具体的に書くと長くなってしまいます。
A. 簡潔さは「文字数の少なさ」ではなく「無駄のなさ」です。不要な言葉を削りながらも、いつ・何が・どうだったかという核となる事実は残すことを意識してみてください。
