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認知症患者さんとのコミュニケーションで心がけていること|精神科看護師が実践していること
「何度同じことを言っても伝わらない」「急に怒り出してどう対応すればいいかわからない」「家族から『ちゃんと話してくれていますか?』と言われてプレッシャーを感じる」
精神科病棟でも、認知症の患者さんは年々増えています。認知症患者さんとのコミュニケーションは、一般的な精神疾患の患者さんとは違う難しさがあります。
この記事では、看護師として精神科で長年働いてきた私が、認知症患者さんとのコミュニケーションで実践していることをお伝えします。
精神科でも認知症患者さんは増えている
以前は認知症といえば老人科・内科のイメージが強かったですが、今は精神科病棟でも認知症の患者さんが多く入院しています。BPSD(行動・心理症状)と呼ばれる、徘徊・暴言・暴力・幻覚・妄想・興奮などの症状が強い場合、精神科での治療・管理が必要になることがあります。
精神科看護師として働いていると、認知症患者さんとのコミュニケーションは避けて通れない大切なスキルになっています。
認知症患者さんとのコミュニケーションが難しい理由
認知症のコミュニケーションが難しいのは、以下のような特性があるためです。
- 記憶障害:さっき話したことを覚えていない・同じことを何度も聞いてくる
- 見当識障害:今がいつか・ここがどこか・相手が誰かがわからない
- 失語・理解力の低下:言葉が出てこない・こちらの言葉が理解しにくい
- 感情の変動:急に怒ったり泣いたり、感情の波が激しい
- 妄想・幻覚:「物を盗まれた」「知らない人がいる」などの訴え
「何度言っても伝わらない」のは本人のせいではなく、病気の特性によるものです。この前提を理解した上で関わることが、コミュニケーションの出発点になります。
心がけていること① 否定しない・訂正しない
認知症の患者さんが「息子が迎えに来る」「家に帰らなければ」と言ったとき、「息子さんは来ません」「ここは病院ですよ」と訂正したくなりますが、これは逆効果になることが多いです。現実を否定されると、患者さんはますます不安・混乱・怒りを感じてしまいます。
大切なのは感情に寄り添うこと。「家が恋しいんですね」「息子さんのことが気になっているんですね」と、その言葉の裏にある気持ちを受け止めることが、関係を保つコツです。
心がけていること② ゆっくり・短く・わかりやすく話す
認知症の患者さんは、長い文章・複雑な説明を理解することが難しくなっています。
- 一度に伝えることは「一つだけ」にする
- ゆっくり、はっきり話す
- 「〜してはダメ」という否定形より「〜しましょう」という肯定形で伝える
- 難しい言葉・専門用語は使わない
「次のお食事の時間まで、少しここで休みませんか?」のように、シンプルで具体的な言葉かけが伝わりやすいです。
心がけていること③ 表情・声のトーンを意識する
認知症が進むと、言葉の意味よりも「雰囲気・表情・声のトーン」から感情を読み取るようになります。こちらが焦っていたり、イライラしていたりすると、その感情がそのまま伝わって患者さんが不安・興奮してしまうことがあります。
ゆっくり、穏やかな表情と声のトーンで関わることが、患者さんを落ち着かせる一番の方法です。「言葉より雰囲気が伝わる」——これは認知症患者さんとの関わりで特に実感することです。
心がけていること④ その人の「過去」を知る
認知症の患者さんは、最近のことは忘れやすいですが、遠い過去の記憶は比較的保たれていることが多いです。出身地・職業・趣味・好きなこと・家族のこと——こういった情報を家族から聞いておくことで、会話のきっかけが生まれます。
「昔、農業をされていたんですよね?」「お花が好きだと聞きましたよ」という一言が、患者さんの表情をぱっと明るくすることがあります。その人の「人生」を知ることが、コミュニケーションの大きなヒントになります。
心がけていること⑤ 怒り・不安の裏にある気持ちを読む
認知症の患者さんが急に怒ったり、「帰りたい」と繰り返したりするとき、その言動の裏には必ず何かの感情があります。
- 「帰りたい」→ 不安・孤独感・慣れない環境へのストレス
- 急に怒る→ 理解できないことへの混乱・プライドを傷つけられた感覚
- 「物を盗まれた」→ 物がない不安・誰かに頼りたい気持ち
「なぜこの言動が出ているのか」を考えることで、対応の仕方が変わってきます。
こんな場面で困ったこと
夜勤中、認知症の患者さんが「家に帰る」と言って何度もナースステーションに来ることがありました。「ここは病院ですよ」と伝えると余計に興奮してしまい、どう対応すべきか悩みました。そのとき先輩から「帰りたい気持ちを受け止めてから、別のことに興味を向けてみて」とアドバイスをもらいました。「家が恋しいですよね。少し一緒にお茶でも飲みませんか?」と声をかけると、患者さんはすっと落ち着いてくれました。否定せず、気持ちを受け止めてから別のことに誘導する——この経験が今の自分のベースになっています。
精神疾患と認知症が合わさると対応はさらに難しくなる
精神科病棟では、精神疾患に加えて認知症も抱えている患者さんがいます。この場合、対応はさらに複雑になります。
「家族が迎えに来ている」と強く信じていて、いくら説明しても聞き入れてもらえない。要求が通らないと興奮して暴れてしまう——そういった場面は珍しくありません。
精神症状(妄想・幻覚)と認知症の症状(見当識障害・記憶障害)が重なることで、通常の声かけや説明が通じにくくなります。落ち着くまでに時間がかかることも多く、場合によっては指示薬(頓服薬)を使って症状を和らげながら対応することもあります。
こういった場面で大切にしていることは、
- まず安全を確保する(他の患者さんへの影響を最小限にする)
- 興奮を高めないよう、声のトーンを落として静かに関わる
- 一人で対応しようとせず、複数のスタッフで対応する
- 「説得しよう」とせず、まず感情を受け止めることに集中する
- 落ち着いたタイミングで医師に報告・指示を仰ぐ
「正しいことを伝えれば理解してもらえる」という前提が通用しない場面もあります。そのもどかしさは現場で働いていると誰もが感じることです。一人で抱え込まず、チームで対応することが何より大切です。
家族・周りの人へのアドバイス
認知症の家族と関わる中で、「同じことを何度も聞かれてイライラしてしまう」という声をよく聞きます。それは当然の感情です。でも、認知症の方にとって「何度も聞く」のは意図的なものではなく、病気の症状です。
「また同じことを言っている」ではなく「また不安になっているんだな」という視点で見ることで、少し気持ちが楽になることがあります。
完璧に対応しようとしなくて大丈夫です。笑顔で「そうですね」と受け止めるだけでも、認知症の方にとって大きな安心感になります。
精神科の現場で感じること
認知症患者さんと関わっていて感じるのは、「言葉が通じにくくなっても、気持ちは通じる」ということです。言葉が出なくなっても、目が合ったときにニコっと笑ってくれる。手を握ると「ありがとう」という表情をしてくれる——そういった瞬間が、認知症患者さんとの関わりのやりがいになっています。
言葉でのコミュニケーションが難しくなっても、「その人を大切にしたい」という気持ちは必ず伝わると感じています。
まとめ
- 否定・訂正せず、感情に寄り添うことが基本
- ゆっくり・短く・わかりやすく・肯定形で話す
- 表情・声のトーンが言葉以上に伝わる
- その人の「過去・人生」を知ることがコミュニケーションのヒントになる
- 怒り・不安の裏にある気持ちを読む
- 言葉が通じにくくなっても、気持ちは必ず伝わる
よくある質問
Q. 認知症の患者さんが同じことを何度も言います。毎回答えた方がいいですか?
A. 毎回丁寧に受け止めることが基本です。「また言っている」と思わず、「また不安になっているんだな」という視点で関わることで、対応が楽になります。
Q. 認知症の患者さんに「ここは病院ですよ」と言ってはいけないですか?
A. 状況によりますが、強く否定することは混乱・興奮につながることが多いです。現実の訂正より、感情への寄り添いを優先することをおすすめします。
Q. 認知症の患者さんが急に怒り出したとき、どう対応すればいいですか?
A. まず距離を少し取って、穏やかな声と表情で「どうしましたか?」と声をかけてください。怒りの裏にある不安・混乱の気持ちを受け止めることが大切です。
Q. 家族として認知症の方とどう関わればいいですか?
A. 完璧に対応しようとしなくて大丈夫です。笑顔で「そうですね」と受け止めるだけでも十分です。一人で抱え込まず、担当医・看護師に相談しながら関わっていきましょう。

