依存症ってどんな病気?精神科看護師がわかりやすく解説
「依存症」という言葉を聞いて、どんなイメージが浮かびますか?
「意志が弱い人がなる病気」「自業自得」「怠けているだけ」——残念ながら、こういった誤解がまだまだ多いのが現実です。
でも依存症は、脳の働きに変化が起きる「病気」です。意志の強さや性格とは関係ありません。この記事では、精神科看護師として依存症の患者さんと関わってきた私が、依存症についてわかりやすくお伝えします。
依存症とはどんな病気?
依存症とは、特定の物質や行動をやめたくてもやめられなくなる状態が続き、日常生活・仕事・人間関係に大きな支障をきたす病気です。
「やめればいいじゃないか」と思う方もいるかもしれません。でも依存症になると、脳の報酬系と呼ばれる部分に変化が起き、自分の意志だけではコントロールできなくなります。「やめたいのにやめられない」——これが依存症の本質です。
依存症には大きく2種類あります。
物質依存
アルコール・薬物・タバコなど、特定の物質を摂取することへの依存です。
行動嗜癖(プロセス依存)
ギャンブル・ゲーム・買い物・インターネットなど、特定の行動へののめり込みです。
アルコール依存症を詳しく解説
依存症の中で最も多く、精神科でもよく見かけるのがアルコール依存症です。
アルコール依存症とは?
お酒をやめたくてもやめられない、飲む量や頻度をコントロールできなくなった状態です。日本では推計107万人がアルコール依存症と言われており、決して珍しくありません。
「毎日飲んでいるから依存症?」というわけではありませんが、飲酒が生活の中心になり、仕事・家族・健康に問題が出ても飲み続けてしまう状態がアルコール依存症です。
アルコール依存症の症状
精神的な症状
- 飲みたいという強い欲求(渇望)が止まらない
- 飲む量や時間をコントロールできない
- お酒のことが頭から離れない
- 飲めない状況になると強い不安・イライラが出る
身体的な症状
- 飲まないと手が震える・汗をかく・動悸がする(離脱症状)
- 同じ量では酔えなくなる(耐性)
- 朝から飲まないと体調が悪い(朝飲み)
離脱症状について
アルコール依存症で特に怖いのが「離脱症状」です。急にお酒をやめると、手の震え・発汗・不眠・幻覚・けいれんなどが起きることがあります。重症の場合は命に関わることもあるため、自己判断で突然やめることは危険です。必ず医療機関のサポートのもとで断酒を進めることが必要です。
治療方法
アルコール依存症の治療は、断酒を目標に進めます。
解毒治療(デトックス)
入院して、安全に離脱症状を管理しながらアルコールを体から抜く治療です。
薬物療法
断酒補助薬(飲酒欲求を抑える薬)が使われることがあります。
心理社会的治療
認知行動療法・動機づけ面接・自助グループへの参加などを通じて、飲まない生活を続けるための力をつけていきます。
精神科の現場で感じること
私の病院では、アルコール依存症の患者さんに対して週1回の勉強会が開催されています。医師・看護師・精神保健福祉士が担当し、疾患のこと・合併症・治療・退院後の生活・疾患との向き合い方などをテーマに話し合います。
この勉強会の特徴は、患者さん自身が自分の「酒歴」を話す時間があることです。「いつから飲み始めたか」「どんなことがあったか」を自分の言葉で話し、他の患者さんの話を聞くことで、「自分だけじゃなかったんだ」という共感が生まれます。この「仲間がいる」という感覚が、回復への大きな力になっています。
また、退院後のサポートとして「断酒会」という自助グループがあります。以前アルコール依存症だった方たちが定期的に集まり、現在の自分がどう過ごしているかを話す場です。毎回必ず自分の酒歴を発表します。なぜかというと、過去の自分を振り返り、「あの頃に戻ってはいけない」という気持ちを新たにするためです。
アルコール依存症の方の多くは、飲み続けることで家族・友人・仕事・家庭を失ってきています。暴言・暴力で大切な人を傷つけ、信用を失い、気づいたときには周りに誰もいない——そんな患者さんをたくさん見てきました。
入院時の状態が激しい方も少なくありません。入院直後に興奮が強く、男性スタッフ5〜6名で対応しながら保護室に入ってもらうケースもあります。そこから少しずつ落ち着いて、勉強会に参加できるようになり、退院のときには「絶対にお酒は飲みません」と誓って病院を出ていきます。
でも再入院してくる方が多いのも現実です。「せっかくここまで回復したのに」という気持ちは正直あります。でも再入院してきた患者さんを責めることはできません。依存症は再発しやすい病気であり、また戻ってくることができる場所がある——それだけで、回復のチャンスがまだあるということだと、今は思うようにしています。
その他の依存症
薬物依存症
処方薬・市販薬・違法薬物などへの依存です。精神科では処方薬(睡眠薬・抗不安薬など)の依存が問題になることもあります。薬物依存症も脳の変化による病気であり、治療が必要な状態として関わることが大切です。
ギャンブル依存症
パチンコ・競馬・カジノなどのギャンブルがやめられなくなる状態です。多額の借金・家族の崩壊・仕事の喪失など、生活への影響が大きいのが特徴です。
ゲーム・インターネット依存症
特に若い世代に増えています。ゲームやインターネットに没頭するあまり、睡眠・食事・学校・仕事に支障をきたす状態です。WHO(世界保健機関)は2019年にゲーム障害を正式な病気として認定しました。
家族にできること
責めない・怒らない
「なぜやめられないの!」と責めても、依存症は改善しません。むしろ本人の罪悪感が増して、依存がさらに深まることがあります。
イネーブリングをしない
「イネーブリング」とは、依存症の人の行動を助けてしまうことです。お酒を買ってあげる・借金を肩代わりする・仕事の欠勤を言い訳してあげる——こういった行動は、依存症の継続を助けてしまいます。
早めに専門機関に相談する
一人で抱え込まず、精神科・依存症専門機関・相談窓口に早めに相談してください。家族がまず相談に行くことで、本人の治療につながるケースも多いです。
家族自身のケアも忘れずに
依存症の家族を支えることは、家族にとっても大きな負担です。「アラノン(アルコール依存症の家族の自助グループ)」などを活用して、一人で抱え込まないようにしてください。
まとめ
依存症についてお伝えしました。
- 依存症は意志の弱さではなく脳の病気
- アルコール依存症は離脱症状があるため自己判断でやめるのは危険
- 週1回の勉強会・断酒会など、仲間とともに回復する取り組みが大切
- 再発しやすい病気だが「またここから」という姿勢で関わることが大切
- 薬物・ギャンブル・ゲームなど様々な依存症がある
- 家族は責めず・イネーブリングせず・早めに専門機関に相談する
「意志が弱いからなる病気」という誤解が少しでも減ってくれたなら嬉しいです。依存症で苦しんでいる方・家族の方は、一人で抱え込まず早めに専門機関に相談してみてください。
次の記事では、精神科看護師が大切にしているコミュニケーション術について書いていこうと思います。お楽しみに!
よくある質問
Q. 毎日お酒を飲んでいたらアルコール依存症ですか?
A. 毎日飲むことイコール依存症ではありませんが、「飲む量をコントロールできない」「飲まないと体調が悪い」「飲酒のせいで生活に支障が出ている」などがあれば、依存症の可能性があります。心配な方は専門機関に相談してみてください。
Q. アルコール依存症は自分でやめられますか?
A. 重症の場合は離脱症状が危険なため、自己判断で急にやめることは危険です。必ず医療機関のサポートのもとで断酒を進めることをおすすめします。
Q. 依存症の家族が治療を拒否しています。どうすればいいですか?
A. まず家族だけで専門機関に相談してみてください。家族が正しい知識を持ち、関わり方を変えることで、本人が治療につながるケースも多いです。
Q. 依存症は完治しますか?
A. 「完治」というより、「回復し続ける病気」という表現が適切です。断酒・断薬・断ギャンブルを続けることで、安定した生活を送れるようになります。自助グループへの参加が長期回復に大きく役立ちます。
