認知症ってどんな病気?精神科看護師がわかりやすく解説
「最近、親の物忘れがひどくなってきた」「認知症ってどんな病気なの?」
認知症は今や日本で600万人以上がかかっていると言われていて、多くの家族が直面している問題です。でも「認知症=物忘れ」というイメージしかない方も多く、正しく理解されていないことも多いです。
この記事では、精神科看護師として認知症の患者さんと長年関わってきた私が、認知症についてわかりやすくお伝えします。
認知症とはどんな病気?
認知症とは、脳の細胞が壊れることで、記憶・判断力・言語など様々な機能が低下し、日常生活に支障をきたす状態です。
「物忘れ=認知症」ではありません。年齢とともに誰でも物忘れは増えますが、認知症の物忘れは体験そのものを忘れるという点が違います。
- 普通の物忘れ:「昨日の夕飯、何食べたっけ?」→ヒントがあれば思い出せる
- 認知症の物忘れ:「昨日の夕飯を食べたこと自体を忘れる」→ヒントがあっても思い出せない
認知症は「老化の一部」ではなく、治療・ケアが必要な病気です。
認知症の種類
① アルツハイマー型認知症(最も多い)
認知症全体の約7割を占める、最も多いタイプです。脳にアミロイドβというたんぱく質が蓄積することで脳の細胞が壊れていきます。記憶障害から始まることが多く、ゆっくり少しずつ進行します。
② 血管性認知症
脳梗塞・脳出血など脳血管の障害によって起こる認知症です。症状が「まだら」に出る(できることとできないことがはっきりしている)のが特徴です。血圧管理など生活習慣の改善で進行を遅らせられることがあります。
③ レビー小体型認知症
幻視(実際にいない人や動物が見える)が特徴的です。症状の波が大きく、良い日と悪い日の差があります。パーキンソン症状(歩きにくい・転びやすい)が出ることもあります。
④ 前頭側頭型認知症
比較的若い年齢(40〜60代)で発症することもあります。記憶障害より先に人格・行動の変化が出るのが特徴です。今まではしなかった行動(万引きなど)が出たり、同じ行動を繰り返すことがあります。
認知症の主な症状
中核症状(認知症の直接的な症状)
- 記憶障害:体験したこと自体を忘れる
- 見当識障害:今日の日付・今いる場所・家族の顔がわからなくなる
- 判断力の低下:お金の管理・料理・買い物などができなくなる
- 失語:言葉が出てこない・人の話が理解できなくなる
- 失行:服の着方・道具の使い方がわからなくなる
周辺症状・BPSD(中核症状に伴って出る症状)
- 徘徊:目的なく歩き回る・家に帰れなくなる
- 暴言・暴力:不安・混乱から攻撃的になる
- 幻覚・妄想:「財布を盗まれた」「知らない人がいる」
- 不眠:昼夜逆転・夜中に活動する
- うつ・無気力:何もしたくない・閉じこもる
- 介護拒否:入浴・食事・服薬を拒否する
BPSDは適切なケアや環境の調整で改善できることがあります。
精神科の現場で感じること
精神科でも認知症の患者さんと関わる機会は多くあります。
認知症の患者さんと関わっていて感じるのは、「その人らしさ」は最後まで残っているということです。記憶や判断力が失われても、好きな音楽に反応する・好きな食べ物を喜ぶ・笑顔になる瞬間がある——そういった場面に出会うたびに、「この人の人生をちゃんと見ていきたい」と感じます。
BPSDへの対応は現場でも難しいと感じることがあります。「財布を盗まれた」という訴えに対して、「盗んでいない」と否定すると余計に混乱・興奮してしまいます。否定せずに「大変でしたね」と受け止めながら、気持ちを落ち着かせることが大切です。
また、認知症の患者さんは環境の変化に弱いです。入院すると「いつもと違う場所」に混乱して、症状が一時的に悪化することがあります。できるだけ慣れた環境・慣れた人との関わりを大切にすることが、症状の安定につながります。
私自身の体験——母の認知症と向き合って
実は私自身も、母の認知症を経験しました。
父が亡くなったのをきっかけに、母は少しずつ変わっていきました。足腰が弱くなり、車の運転ができなくなって外出の機会が減り、好きだった買い物や畑仕事もできなくなっていきました。周囲との関わりも減って、家の中で過ごす時間がどんどん増えていきました。
私も仕事があるので、しょっちゅう実家に行くことはできません。病院の受診などで行ける日も限られていました。
ある日実家に行くと、テレビもつけずにぼんやりと椅子に座っている母の姿がありました。声をかけると「ちょっと寝てた」と言いましたが、それが頻繁に起きるようになりました。ご飯を作るのが面倒になったのか、パンやお菓子を食べては「おなか減ってない」と言って、ちゃんとした食事をとらない日も増えていきました。
「あんなにしっかりしていたのに」——認知症かもしれないと思いながらも、正直認めたくない気持ちがありました。
そんな中、母が家で転倒してしまいました。幸い大事には至りませんでしたが、念のため入院することになりました。
退院後、「一人でいる時間が長いとこれからどんどん認知が進行してしまう」と思い、介護保険サービスを利用することにしました。デイサービスを利用し始めると、家から出て人と関わる機会ができ、もともと話好きだった母はデイサービスをだんだん楽しみにするようになりました。
ただ、帰ってくると「疲れた〜」とよく言っていたので、無理のない範囲で本人と話し合いながら利用日数を調整しました。介護サービスは「使わせる」のではなく、本人が納得して楽しめる形で使うことが大切だと実感しています。
介護はがんばりすぎず、ボチボチでいい。これが私の正直な気持ちです。
家族にできること
否定しない・怒らない
「さっき食べたでしょ!」「何度言ったらわかるの!」——これはNGです。認知症の方は食べたこと自体を忘れているので、責めても意味がありません。むしろ混乱・不安が増して、症状が悪化することがあります。「そうだね、一緒に確認しようか」と寄り添う姿勢が大切です。
「できること」に注目する
認知症が進んでも「できること」はたくさんあります。「もうこんなこともできなくなった」ではなく、「今日もこれができた」という視点で関わることが、本人の尊厳を守ることにつながります。
早めに専門機関に相談する
「もしかして認知症かも」と感じたら、早めに受診することをおすすめします。早期発見・早期治療で進行を遅らせられることがあります。かかりつけ医・神経内科・精神科・物忘れ外来などに相談してみてください。
介護保険サービスを積極的に活用する
デイサービス・訪問介護・ショートステイなど、介護保険サービスを上手に活用することで、本人の生活の質が上がり、家族の負担も減ります。地域包括支援センターに相談すると、利用できるサービスを教えてもらえます。
家族自身のケアも忘れずに
認知症の介護は長期戦です。「介護疲れ」「介護うつ」になる家族はとても多いです。一人で抱え込まず、介護サービス・家族会などを積極的に活用してください。介護はがんばりすぎず、ボチボチでいいんです。
まとめ
認知症についてお伝えしました。
- 認知症は「体験そのものを忘れる」病気で老化とは違う
- アルツハイマー・血管性・レビー小体・前頭側頭型など種類がある
- 中核症状とBPSD(周辺症状)がある
- 否定せず・怒らず・寄り添う関わりが大切
- 早めの受診・診断が進行を遅らせることにつながる
- 介護保険サービスを上手に活用する
- 介護はがんばりすぎず、ボチボチでいい
「認知症かもしれない」と感じたら、一人で抱え込まず早めに専門機関に相談してください。適切なケアとサポートで、本人も家族も穏やかに過ごせる時間を増やすことができます。
次の記事では、パニック障害についてわかりやすく解説していこうと思います。お楽しみに!
よくある質問
Q. 認知症は何歳から発症しますか?
A. 多くは65歳以上で発症しますが、65歳未満で発症する「若年性認知症」もあります。前頭側頭型認知症は比較的若い年齢で発症することもあります。
Q. 認知症は治りますか?
A. 現時点では根本的な治療法はありませんが、薬や適切なケアで進行を遅らせることができます。早期発見・早期治療が大切です。
Q. 物忘れが多くなってきました。認知症でしょうか?
A. 物忘れだけで認知症とは言えません。ただし「体験したこと自体を忘れる」「日常生活に支障が出ている」という場合は、受診をおすすめします。
Q. 認知症の介護で限界を感じています。
A. 一人で抱え込まないでください。地域包括支援センター・介護サービス・家族会などに相談することをおすすめします。介護はがんばりすぎず、ボチボチでいいんです。
