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精神科看護師が教える「双極性障害」の関わり方——躁とうつ、両方の波に寄り添う
「昨日まであんなに元気だったのに、今日は布団から出られないと言っている」「興奮して眠れない日が続いたと思ったら、急に落ち込んでしまった」——双極性障害の患者さんとの関わりは、その波の激しさに戸惑うことがあります。
躁状態のときとうつ状態のときでは、まるで別人のように見えることもあります。それぞれの状態に合わせた関わり方を知っておくことが、患者さんの安定と回復につながります。
精神科看護師として26年働いてきた私が、双極性障害への関わり方をお伝えします。
双極性障害とは?
どんな病気か
双極性障害(以前は「躁うつ病」とも呼ばれていました)は、気分が大きく高まる「躁状態」と、気分が沈む「うつ状態」をくり返す精神疾患です。気分の波は本人の意志ではコントロールできず、日常生活・仕事・人間関係に大きな影響を与えます。
双極性障害にはⅠ型とⅡ型があります。
- 双極性障害Ⅰ型——明らかな躁状態が現れる。入院が必要になるほど症状が重くなることがある
- 双極性障害Ⅱ型——躁状態は軽め(軽躁状態)で、うつ状態が主に目立つ。うつ病と間違われやすい
躁状態の主な症状
- 気分が異常に高揚し、自信があふれる
- 眠らなくても元気でいられる
- 考えがどんどん浮かんでくる(観念奔逸)
- 多弁・多動になる
- 衝動的な行動(浪費・性的逸脱・無謀な計画など)
- 易怒性(些細なことで怒りやすくなる)
うつ状態の主な症状
- 気分の落ち込み・無気力
- 何もやる気が起きない・楽しめない
- 眠れない、または眠りすぎる
- 食欲の変化(食べられない・食べすぎる)
- 自己否定・自責感が強くなる
- 死にたいという気持ちが出てくることがある
躁状態のときの関わり方
興奮・多弁に巻き込まれない
躁状態の患者さんは、話が止まらなかったり、次々と要求が出てきたりします。こちらも会話のテンポに引き込まれてしまうことがありますが、落ち着いたトーンで短く返すことが大切です。長い会話は興奮をさらに高める可能性があります。
要求には明確に限界設定を
「今すぐ外出したい」「電話を貸してほしい」「特別扱いしてほしい」——躁状態では要求がエスカレートしやすいです。「それはできません」「ここまでは対応できます」と穏やかに、しかし明確に伝えることが大切です。曖昧な返答は要求をさらに大きくします。
刺激を減らす
躁状態のときは、外からの刺激が症状を強めることがあります。騒がしい環境・他の患者さんとのトラブル・刺激の多い話題——できるだけ穏やかな環境を整えることが、症状の安定につながります。
躁状態のピーク時、「自分はすごい発明をした」「世界を変えられる」と話し続ける患者さんがいました。否定すると怒り出すし、同調すると話が止まらなくなる——難しい対応でした。「そうですか」と短く返しながら、「今日は少し休みましょう」と促すことをくり返すうちに、少しずつ落ち着いてきました。躁状態のときは「治めよう」とするより、「これ以上高めない」ことを意識するのが大切だと感じています。
うつ状態のときの関わり方
「頑張れ」は禁物
うつ状態のときに「頑張れ」「前向きに」という言葉は逆効果です。「もう十分頑張っているのに」と患者さんをさらに追い詰めます。「つらいですね」「ゆっくりしていいですよ」という言葉が支えになります。
そばにいるだけでいい
うつ状態のときは、何かをしてあげようとしすぎなくて大丈夫です。「今日も来ましたよ」「ここにいますよ」という存在感を伝えるだけで、患者さんの安心感につながります。無理に話をさせようとしないことも大切です。
希死念慮・自殺リスクに注意
うつ状態では、死にたいという気持ちが出てくることがあります。「消えたい」「いなくなりたい」という言葉を軽く流さず、「そんなにつらいんですね」と受け止め、医師への報告を忘れずに行いましょう。特に、躁状態からうつ状態に切り替わるタイミングは自殺リスクが高まることがあるため、注意が必要です。
躁状態が落ち着いたあと、うつ状態に入った患者さんが「躁のときにやってしまったことが恥ずかしくて死にたい」と話してくれたことがあります。躁状態のときの自分の言動を振り返って、深く自責する方は少なくありません。「あのときのあなたは病気の症状だったんですよ」と伝えながら、自責感を一人で抱え込まないよう寄り添うことが大切だと感じています。
双極性障害の患者さんへの関わりで大切なこと
波のパターンを把握する
双極性障害の患者さんは、躁とうつの波に一定のパターンがあることが多いです。「この患者さんはこういうサインが出たら躁が来る」「うつに入るときはこんな変化がある」——長く関わる中で把握したパターンをチームで共有することが、早期対応につながります。
服薬の継続をサポートする
双極性障害の治療には、気分安定薬(炭酸リチウム・バルプロ酸など)の継続が欠かせません。躁状態のときは「調子がいいから薬はいらない」と自己中断しやすく、うつ状態のときは「飲む気力がない」となりやすい。どちらの状態でも服薬継続の大切さを丁寧に伝え続けることが看護師の役割です。
躁状態のときの言動を責めない
躁状態のときに暴言を吐いたり、迷惑をかけたりすることがあります。うつ状態に入ってから「あのときのことが恥ずかしい」「申し訳なかった」と自責する患者さんも多いです。「病気の症状でしたから」と伝え、自責感を和らげる関わりが大切です。
まとめ
- 双極性障害は「躁状態」と「うつ状態」をくり返す病気。本人の意志ではコントロールできない
- 躁状態には——落ち着いたトーンで対応・明確な限界設定・刺激を減らす
- うつ状態には——「頑張れ」は禁物・そばにいるだけでいい・希死念慮に注意
- 躁からうつへの切り替わりは自殺リスクが高まる時期——特に注意が必要
- 波のパターンをチームで共有し、早期対応につなげる
- 服薬継続のサポートと、躁状態のときの言動を責めない関わりが大切
よくある質問
Q. 躁状態の患者さんへの対応で疲れてしまいます。どうすればいいですか?
A. 一人で対応し続けないことが大切です。チームでローテーションしながら対応することで、特定のスタッフへの負担を減らせます。「疲れた」と感じることは自然なことです。チームで共有し、無理をしないことが長く関わり続けるための秘訣です。
Q. 双極性障害とうつ病の違いは何ですか?
A. うつ病はうつ状態だけが続く病気ですが、双極性障害は躁状態(またはその軽い形)も現れることが特徴です。双極性障害Ⅱ型は躁状態が軽いため、うつ病と間違われることがあります。治療法も異なるため(抗うつ薬だけでは双極性障害は悪化することがある)、正確な診断が大切です。
Q. 躁状態のとき、患者さんが「自分は病気じゃない」と言います。どう対応すればいいですか?
A. 躁状態では「自分は絶好調」という感覚が強く、病識が持ちにくいことが多いです。否定せず、「今の状態を先生に診てもらいましょう」と医療につなぐことを優先しましょう。服薬や治療への同意が得られない場合は、家族や医師と連携して対応することが大切です。
Q. 双極性障害は完治しますか?
A. 完治というより、「波をコントロールしながら生活を安定させる」ことが治療の目標です。薬の継続・規則正しい生活・ストレス管理によって、再発を防ぎながら社会生活を送れるようになる方は多くいます。長期的な視点で関わることが大切です。
